工学|酵素反応速度式の導出方法

ここでは、工学、特に化学工学、生物工学にて重要な酵素反応速度式の導出方法について、著者独自が分りやすいように解説している。

投稿:2016.11.03


 
 ここでは、工学、特に化学工学、生物工学にて重要な酵素反応速度式の導出方法について、著者独自が分りやすいように解説している。
 化学反応速度式の理解は、化学工学を学ぶ上で避けては通れない。しかし、反応の全体像をみれば、条件を設定でき、数式を導くことができる。

酵素反応速度式の導出方法について


反応に捧げる詩文

慮り(おもんぱかり)慮り、平穏に事が流れんことを

この世の中は、あるものとあるものとが、おかれた環境において互いに感応しあい、時間的に新しき存在を生み出し創り出している。

それはなにもプラスに結果するに限らず、分裂を起こしたり、変質を遂げたり、存在自体を脅かす結果となるような変化を生み出してしまう場合もある。

「反応」という言葉は、反らすに応じる と書くが、もともとは相「反」する異質な性格を持つものが新しき存在を生み出す共通の目的のために、相手に「応」じる行為をいうのであろうか。


1. 酵素反応速度式の導出問題

今回は化学反応で頻繁に出てくる反応速度式の数式の導出について考えます。
 酵素は私たちの生命活動にとって大切な役割を担っています。反応速度式の導出は、ある物質の濃度と、そのものがおかれた環境条件を指定する定数を用いて比例的に表すことができます。反応速度を考えながら料理に興じるのもひとつの愉しみではなるでしょう。


酵素 Enzyme(E)、基質 Substrate(S)、反応生成物 Product(P)とする。
 いま、ある溶液の中において、以下のような触媒作用がはたらき、基質Sから反応生成物Pが生まれている。

(1)   \begin{equation*} {\rm S + E \rightleftharpoons ES} \hspace{5mm} (k_{1}, k_{-1}) \end{equation*}

(2)   \begin{equation*} {\rm ES \rightarrow P + E} \hspace{5mm} (k_{{\cm cat}}) \end{equation*}

ここで、k_{1}, k_{-1}, k_{{\cm cat}} はそれぞれの反応の反応速度定数とする。cat は触媒(catalysis)、ESは酵素ー基質複合体である。
 Pに関する反応速度式を求めよ。


2. 酵素反応速度式導出の指針

 

酵素を触媒とした生成物に関する反応速度式の導出問題です。導出にあたり、重要な条件を設定する必要があります。それは、酵素ー基質複合体を反応性に富む活性中間体として捉え、酵素ー基質複合体の生成速度と崩壊速度との和がゼロであると仮定することです。これはあたかも酵素ー基質複合体の濃度が変化しない、定常な状態である反応のようにみえるため、定常状態近似法と呼ばれています。現場では、活性中間体の濃度はとても小さく、濃度の測定も困難であるため、定常状態近似法を適用することは妥当と考えられている。
 計算においては、ESについての生成速度と崩壊速度との和がゼロであるとすればよいのです。そして全酵素濃度[E]0は、実験準備段階で設定でき、[E]0=[E] + [ES] の関係式が成立し、未知数である[E]や[ES]を消去して反応速度式を導くことができます。

 

酵素反応のGIF

アニメーション1.酵素反応のイメージ。
基質Sが酵素Eと活性中間体ESとなり、ただちに反応生成物Pができる。

 

3. 酵素反応速度式を導く


求めたいのは次の反応速度式です。

(3)   \begin{equation*} \frac{d{\rm [P]}}{dt}=r_{p}= k_{\rm cat}{\rm[ES]} \end{equation*}

しかし、[ES]の値は明らかではありません。そこで、酵素ー基質複合体 ES を活性中間体と仮定し、酵素ー基質複合体濃度 [ES] に対して定常状態近似法を適用します
 するとESの反応速度式は次式で表せます。

(4)   \begin{equation*} \frac{d{\rm [ES]}}{dt}=r_{\rm{ES}}= k_{1}{\rm{[S][E]}} - k_{-1}{\rm{[ES]}} - k_{\rm{cat}}{\rm{[ES]}} = 0 \end{equation*}

また、溶液中に存在する全酵素濃度を[E]0とすると、酵素Eについて、次の関係式がなりたっています。

(5)   \begin{equation*} \rm{[E]_{0}}=[E]+[ES]} \end{equation*}

(4)、(5)式中において、未知数は [E]、 [ES] の2つです。よって、 [E] 、[ES] について両式の連立方程式を解くと、それぞれの値が得られます。

(6)   \begin{equation*} \displaystyle {\rm[ES]}= \frac{{\rm[E]_{0}[S]}}{K_{m}+{\rm[S]}} \end{equation*}

(7)   \begin{equation*} \displaystyle {\rm[E]} = \frac{K_{m}{\rm[E]_{0}}}{K_{m}+{\rm[S]}} \end{equation*}

ここで、 \displaystyle K_{m}=\frac{k_{-1}+k_{\rm cat}}{k_{1}} とおきました。
 (6)式で表された [ES] はすべて具体的に知ることのできる値です。よって、(6)式を(3)式へ代入して、求めたい反応速度式が明確となります。

(8)   \begin{equation*} \frac{d{\rm [P]}}{dt}=r_{p}= \frac{k_{\rm cat}{\rm[E]_{0}[S]}}{K_{m}+{\rm [S]}} \end{equation*}

4. 酵素反応速度式導出の考察


(8)式は、基質濃度 [S] が変数です。そこで、それ以外のすべての定数を便宜上 1 とおき、(8)式を図化してみます。つまり \displaystyle f(x)=\frac{x}{1+x} のグラフを描くのです。

 

(x/x+1)のグラフ

これをみると、x 値が無限に大きくなれば、\displaystyle \frac{x}{1+x}値が収束値1に近づいているのがわかります。このことを(8)式にて考えれば、基質濃度[S]をとてつもなく膨大に大きくさせると、r_{p}k_{{\rm cat}}{\rm{[E]_{0}}}へ限りなく近づきます。r_{p, {\rm max}}=k_{{\rm cat}}[\rm{E]_{0}}と定義すると、これは最大速度を意味します。これを(8)式へ代入して書き換えると次の式が得られます。

(9)   \begin{equation*} \frac{d{\rm [P]}}{dt}=r_{p}= \frac{r_{p, {\rm max}}{\rm [S]}}{K_{m}+{\rm [S]}} \end{equation*}

この(9)式を使うには、[E]0が反応中不変である条件が必要です。 反応が進行するにつれ全酵素濃度[E]0が大きく変化するのであれば、(8)式を用いて考えなければなりません。また、どの程度の量の基質を反応槽へ投入するかは、材料費、エネルギー、収率などを考慮して計画します。この問題のカギは定常状態近時が使えるかどうかにかかっています。
 
 一般に酵素Eと基質Sとを同一溶液中にて混合させれば、すぐさま酵素ー基質複合体ESが生成されます。このとき、初期条件として {\rm [E]_{0}} \ll {\rm [S]_{0}} を設定すれば、酵素ー基質複合体ESは生成と消滅とを繰り返し、定常状態として考えられます。しかし、 {\rm [E]_{0}} \fallingdotseq {\rm [S]_{0}} であるならば、酵素ー基質複合体ESは各溶液混合後、増加の一途をたどり、定常状態近似は成り立ちません。実験ではこのことに注意して、材料の投入割合を決定することが必要です。

 

5. 数式を導く手書きメモ


酵素反応の手書き計算

 

6. 深く学ぶための資料

『化学事典』(大木道則他編/東京化学同人/1994)
 

sponsored link


 
 

返事を書く

Please enter your comment!
Please enter your name here

Enter Captcha Here : *

Reload Image

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください